tsuneメモ

読書・勉強メモ、思いついたこと、普段の日記など。

読んだ本 vol.2 (2023/9 - 2023/1/13)

年末年始にかけて読書欲が急上昇中。

今年の目標は積読消化なので、この熱が冷める前に読み耽りたいと思います。

どうも小説は読み慣れていないので評価が高くなりがちのようです。そのうち下方修正するかも。

 

 

× 熱力学で理解する化学反応の仕組み / 平山令明

  • 熱力学への理解を深めたくてチョイス
  • と思ったのだがはっきり言って悪書。
    • 3章のエントロピーの説明がめちゃくちゃで厳しい。「位置エントロピー」「熱エントロピー」という謎概念(僕が無知なだけかもしれません)が登場する。さらにエントロピーの説明のために場合の数を具体的に求めながら話を続けるので、算数に気が取られるのも痛い。
    • スピリチュアルな話が結構な頻度で出てくる。これ自体は嫌なことではないのだが、繰り返し登場すること、さらにはどうもこれら教義を科学と同列な真理のように考えているようで、私とは立場が合わなかった。
  • 極め付けは4章p122。

物理学は、私たちの自然認識の最も基本的な法則性に関する論理体系と言えます。しかし多くの物理法則が検証されてきた中で、現代の物理学が、絶対的な真理として認めているものは、実は熱力学の第二法則(エントロピーは増大する)のみです。相対性理論も含め、多くの理論がまだ理論の域を出ません。

  • ちょっとこれは看過できない。相対性理論量子力学が理論の域を出ない(あるいは間違っている)と考えている物理学者は一人もいないと思う。これまで提唱されてきた物理理論は数多くの実験事実に支えられたものであり、基礎研究から産業応用まで含めて普遍的に正しいとして人間の活動が計画されている。もし今後物理が発展するとしても、こうした過去の理論を拡張するような形でしかあり得ないと私は思う。また逆に、熱力学第二法則については本書に書かれているような範囲では不十分であり、マクスウェルの悪魔のように情報を含んだ形「情報熱力学」に拡張できるということが明らかになりつつある。
    ※ 詳しくは 非平衡統計力学 基本法則から読み解く物理学最前線 とかを参照してください。
  • ということで、ここで読むのをやめた。お勧めしない。メルカリにも出さなかった。

目次

1章 「こと」を起こす根本――エネルギーとは
2化学結合エネルギー
3章 状態を表す指標――エントロピーとは
4章 自由エネルギー
5章 反応の方向を決める――化学平衡
6章 反応(こと)が起こるスピード

 

★★☆ 傲慢と善良 / 辻村深月

  • 友人にオススメされた。かがみの孤城が結構好きだったので、ウキウキしながら読み始めた。

かがみの孤城 文庫 上・下巻 セット

  • 婚約者失踪の謎を追うというのがメインプロットだが、婚活を中心とした強烈な現代風刺小説。
  • もはや特級呪物。考えないように訓練してきたことを全部剥ぎ取られるような感覚。もう止めてと思っても止めてくれない。それが心地良くも感じる。一方で、自分の悩みをこんなに解像度高く普遍的に描かれてしまうと、何だかなあという気持ちになってしまう。
  • 後半ではこうした社会問題に対して、一種の解決策を提示しているようにも感じた。
  • 本書で提示された「傲慢と善良」の問題について、前回記事で紹介した「現代思想入門」の Michel Foucault の考えを踏まえて。

    tsune71079.hatenablog.com

  • 根本としてはSNSやマスメディアを通じて他人との(表面的な)接触が過剰に増えたことが原因なのだろうと思う。幸せの表明(実際にそうかもしれないし、そうでないかもしれない)や他者の誤ち(そうとまでは言い切れないグレーなものを含む)に対して、同調や善悪の判決が下される様子を日々摂取している(「1984」の「二分間ヘイト」に通ずるものがある)。その結果、こうするのが正しい、これは良くない、自分が無意識的に作った他者によって自分を縛り上げて「善良」となり、それと同時にこれらを守っている自分は正しいはずだと「傲慢」さが獲得される。
  • こうなってしまった現代人に対して、さらに追い打ちをかけているのは個人主義だと思う。自分で物事が判断できない、自分の好きがわからないあなたはアイデンティティーを喪失した間違った存在だと突きつけられる。実際にその矛を突きつけている主体は他者ではなく、自分が空想で作り出した他者であり、これが自己愛を低下させていく。
  • お気に入りの箇所は p137 l5。

 

★☆☆ 現代数理統計学の基礎 / 久保川達也ほか

統計学について真面目に勉強しようと思い、久しぶりにちゃんと数学書を読んだ。といっても途中まで。

  • 私にとっては理論的な厳密さがちょうど良い塩梅だと感じた。
  • 演習問題が豊富であり、サポートページで全ての解答が公開されているのは素晴らしい。気になったものをつまみ食いのように解いただけだが、骨太なものも多く、やはり手を動かすと理解が段違いに進むなと感じた。
  • ただ不親切な部分はある。例えば、正規母集団の標本平均・標本分散の従う確率分布の導出に、特に説明なく Helmart 行列と呼ばれる行列が登場する。これは1行目が全ての成分を等しく混ぜる効果、つまり1行目に標本平均の成分が出るようにし、残りをGram-Schmidtで適当に直交化したものである。一言これが書いてあるだけでかなりの読者が納得できると思う。これは読者が考えて納得すべきだというメッセージなのかもしれないが。
  • 確率・統計学を勉強して思ったこととして。中心極限定理は、要は特性関数の2次のTaylor展開であり、統計学における「線形な」現象なのだと理解した。よって以て正規分布は、力学における調和振動子のような数式美を有し、人類が確率を扱う上で基本となる。この範疇を超えるには、個別具体の確率モデルに限るか、集団の漸近的な振る舞いにのみ着目して正規近似するという戦略になるのだろう。

目次

1章 確率
2章 確率分布と期待値
3章 代表的な確率分布
4章 多次元確率変数の分布
5章 標本分布とその近似
6章 統計的推定
7章 統計的仮説検定
8章 統計的区間推定
9章 線形回帰モデル
10章 リスク最適性の理論
11章 計算統計学の方法
12章 発展的トピック:確率過程
A
付録

 

☆☆☆ 脳波の発見 / 宮内哲

  • 脳波について興味を持ち選定。
  • と思ったのだけど伝記に近く、知りたかったサイエンスのことはほとんど載っていなかった。ブルーバックスくらいのノリを期待していた。
  • 読み物としては面白かった。彼もまた長い間、功績を認められなかった科学者の一人だった。

目次

プロローグ
1 祖父リュッカート
2 布石
3 非侵襲脳活動計測と脳波
4 結実
5 逡巡
6 孤立
7 光明
8 秘密の波―テレパシーへの傾倒
9 憂愁
エピローグ

 

ー 脳の大統一理論 自由エネルギー原理とは何か / 乾敏郎ほか

  • 人工知能分野でも耳にする「自由エネルギー原理」についてざっくり知りたくて選定。
  • 2章でギブアップ。Bayes的な考え方で様々な脳の働きを説明しようとするのだが、突然現れる「注意」という概念がどうもこれ自体に意識があるような説明の仕方で、それではただ問題を言い換えただけではないかとツッコミを入れてしまった。
  • 正確に理解できていないから、批評はしない。

目次

まえがき
脳の構造
1 知覚――脳は推論する
2 注意――信号の精度を操る
3 運動――制御理論の大転換
4 意思決定――二つの価値のバランス 5 感 情――内臓感覚の現れ
6 好奇心と洞察――仮説を巡らす脳
7 統合失調症自閉症――精度制御との関わり
8 認知発達と進化、意識――自由エネルギー原理の可能性
あとがき
参考文献
付録 自由エネルギー原理の数理を垣間見る

 

★★☆ サピエンス全史 / Yuval Noah Harari

  • 全世界で2,500万部というとんでもないベストセラー。いつか読もうと思っていた。書店をふらふらしていてモチベが高まり購入。名著に相応しい感動や発見を与えてくれた。
  • ホモ・サピエンスから現在の人類が出来上がるまでを解説した通史書
  • 人類繁栄の鍵は虚構を信じる能力にある。中でも重要だったのが「貨幣」「帝国」「宗教」という3つの虚構。

  • これらを「認知革命」「農業革命」「科学革命」「産業革命」「現代革命」という5つの革命の流れの中で説明している。

  • イデオロギーと呼ばれている「国民主義」「自由主義」「消費主義」も宗教に他ならない、さまざまな形で刷り込まれているという指摘は鋭い。「いろいろ経験した方が人生が豊かになって良い」というのも「ロマン主義」という宗教らしい。

  • 下巻12章p43の図に、自然法則は人間とは無関係に存在するものであることが示されている。だから自然法則がどのような形をしているのかを明らかにする「研究」という職業が存在するし、超人間的な物を「論理」という武器で追い詰めていく物理学が好きなんだろうと思った。自然法則は美しい。

  • 科学と帝国・経済の関わり(下巻14-16章)も興味深い。科学革命は「無知の知」によって始まり、これが帝国の「未開の地を我がものにしたい」という探究心に結びつき、進歩という概念が生まれ、ゼロサムゲームに近いと思われていた経済も進歩しうるのだという気づきから「クレジット」が誕生した。得られた資金は科学へ投入され、未開の地を制圧する道具を生み出し、新たに確保された資源や労働力が経済を発展させる、強力なフィードバックループが人類の加速度的発展につながった。この結果、科学の発展には帝国・経済への利益が期待され、研究に必要な限られた資源の分配にこれらのイデオロギーがついて回った。研究計画を書いて資金を獲得する構造は大昔からあったということだ。
  • 科学史への興味も増した。物理に限って話をすると「力学」「熱力学」「電磁気学」「量子力学」のように分化されているが、初めからそうだったわけではないはず。いかにして法則を見出し、その適用限界を定めていったのか。いくつか気になる本があるので読んでいきたい。

物理学序論としての 力学 (基礎物理学1)

重力と力学的世界 上 ――古典としての古典力学 (ちくま学芸文庫)

熱学思想の史的展開〈1〉熱とエントロピー (ちくま学芸文庫)

物理学を変えた二人の男――ファラデー,マクスウェル,場の発見

相対性理論の一世紀 (講談社学術文庫) 

量子論の発展史 (ちくま学芸文庫)

だれが原子をみたか (岩波現代文庫) 

歴史年表
第1部 認知革命
第1章 唯一生き延びた人類種
第2章 虚構が協力を可能にした
第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
第4章 史上最も危険な種
第2部 農業革命
第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
第6章 神話による社会の拡大
第7章 書記体系の発明
第8章 想像上のヒエラルキーと差別
第3部 人類の統一
第9章 統一へ向かう世界
第10章 最強の征服者、貨幣
第11章 グローバル化を進める帝国のビジョン
第12章 宗教という超人間的秩序
第13章 歴史の必然と謎めいた選択
第4部 科学革命
第14章 無知の発見と近代科学の成立
第15章 科学と帝国の融合
第16章 拡大するパイという資本主義のマジック
第17章 産業の推進力
第18章 国家と市場経済がもたらした世界平和
第19章 文明は人間を幸福にしたのか
第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ
あとがき――神になった動物

 

☆☆☆ データ可視化学入門 / 江崎貴裕

  • 仕事で多変数のデータを分析したい場面が多くなり選定。
  •  1章に書かれている下記の指摘が重要と感じた。
    • データ可視化は「探索志向型」「説明志向型」の2つに大別される。
    • 数量を図形に置き換えることで、人間のパターンマッチング能力が活かせるようになり、伝達力上がる。
  • 2章からはケース別に手法が紹介される。
    • 平均値・標準偏差 vs 中央値・パーセンタイル点のロバスト性の話が良かった。
    • 多変数のデータ分析で生データを直接可視化する方法としてパラレルプロット、ペアプロットという方法が紹介されていた。次元削減を試す前に、これらの手法で観察を行うことも大切なように思った。

目次

第1章 データ可視化の本質
第2章 数量を把握するデータ可視化
第3章 メカニズムをとらえるデータ可視化
第4章 多変数をとらえるデータ可視化
第5章 データの分布をとらえる指標化
第6章 関係性をとらえる指標化
第7章 パターンをとらえる指標化
第8章 データ指標化・可視化のプロセス
Appendix
Pythonデータ可視化コーディング入門

 

★★☆ 1984 / Geroge Orwell

  • 傲慢と善良」から感じている現代的生きづらさのヒントとして監視社会が浮かび、そういう話ないかなーと思って探した。ディストピア小説の傑作と言われるに相応しい不気味な本だった。
  • 徹底的に思想統制された社会を描く。

    • テレスクリーン:双方向型のテレビ型デバイス全体主義を植えつけるコンテンツがひっきりなしに流れると同時に、画面を通じて常に監視を受ける。

    • 真実省:党員である主人公の勤め先。過去の記録を「修正」して党に貢献する。何年にもわたって繰り返し「修正」される歴史は、党の望むままの姿となる。
    • ニュースピーク:思考を縛るために語彙を徹底的に削減した新しい言語まで開発されている。
    • 2分間ヘイト:個人主義自由主義を唱える悪族としてゴールドスタインという人物がテレスクリーンに写り、党員が画面に向かって罵詈雑言を吐き、物を投げつける。
  • 冷戦時代に書かれたとは思えない先見性。解説にも書かれていたが、テレスクリーンや2分間ヘイトは現代のSNSに通ずるものがある。

  • だが本書の真骨頂はこうした独特の世界観ではなく、中盤以降に展開される巧妙な議論にあると感じた。極度の緊張感の下で繰り広げられるやりとりは、えも言われぬリアリティがあった。ディストピア小説だが、半分くらいは思想の本だろう。

  • 好きな箇所はp425 l15-16。

 

★★☆ 誰が勇者を殺したか / 駄犬

  • 友人にオススメされた。初めてラノベを読んだ。
  • Amazonの★4.8。高すぎんだろ... でもこのハードルをちゃんと越えてくれた。
  • 魔王を討ち取ると同時に死んでしまった勇者の謎を追う。
  • 話の構成が上手だと思った。序盤はインタビュー形式で、会話の中で説明的かつ自然に勇者たちの人物像が浮かび上がってくる。気がつくと物語の展開に引き込まれていき、あっという間に読了する。
  • エピローグとあとがきも良い。勇気をもらえるし、美味しいスイーツを買いに行きたくなる。そんな作品だった。
  • お気に入りの箇所は p225 l3-4。